ミューズ細胞
脳細胞が甦る⁉ 再生医療
脳細胞は死滅することはあっても新たに作られることは無いと習ったような気がしていて、ずっとそう思っていました。
ところが、NHKクローズアップ現代の「脳がよみがえる!?再生医療大国・日本の逆襲」というタイトルの特集を見て知ったのですが、今は、脳細胞を再生し失われた機能をよみがえらせる「再生医療」の挑戦が始まっているとのことでした。この事は5年前に、ここのブログ
で記事にしています。
驚きでした。
かつて、一度死滅したら再生は不可能といわれた人の脳細胞。ところが1998年、研究者の岡野栄之さんが、成人の脳の中に脳細胞を作りだす働きを持つ幹細胞を見つけたのです。その発見は世界を驚かせ、幹細胞を使った治療の可能性を広げました。そのような内容に"へ~、そうなんだ"とその時、思いました。
そして2年前、自身が脳出血を発症したことをきっかけに、損傷を受けた脳細胞の再生に、さらに関心を持つことになりました。
私の場合、被殻出血と診断され、幾つかの軽微な感覚障害が現れ今も残っていますが、幸い運動機能障害の後遺症は現れませんでした。
神経細胞の大部分は胎生期に幹細胞からつくられますが、成熟過程でほとんどの幹細胞は消失し、成熟後は「脳室下帯」などごく限られた領域でしか神経細胞は作られません。
脳梗塞を発症した場合、脳室下帯で作られた未熟な神経細胞は損傷部分に移動して神経細胞を再生しようとしますが、神経機能の障害を十分に回復させることは出来ないと言います。
脳梗塞後の脳神経細胞再生医療をネットで調べてみると詳しくは解りませんが、乳歯歯髄幹細胞培養上清、サイトカインカクテル療法、エクソソーム療法などがあり、実際にクリニックで行なわれていることも知りました。
ミューズ細胞、再生医
最近ではテレビ番組、情熱大陸(「難病者に希望の灯をミューズ細胞で描く未来の医療」というタイトルの今年1月22日放送分)を見てミューズ細胞とその発見者である再生医療研究者の出澤真理教授を知り、このミューズ細胞を用いた脳出血後の再生治療に期待を寄せていました。
ミューズ細胞は、2010年に出澤真理教授が発見し命名しました。この細胞は様々な細胞に分化する事が出来る多能性幹細胞で、人の体にもともと存在しています。
もし、ある臓器が損傷した場合、損傷した細胞膜からスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)という物質が放出される。ミューズ細胞はこのS1Pに対する受容体を持っていて、その損傷した臓器に集まる。そして壊れて死んだ細胞を貪食し、その臓器の情報を取り込む事によって、その臓器に分化し修復再生するそうです。
出澤真理教授を理事長として2021年10月28日、「特定非営利法人 ミューズの樹 Tree OF Muse Cell」が設立されています。
ミューズ細胞についてミューズの樹のサイト内で解りやすく解説しています。
Muse細胞とは➡MUSE細胞とは – NPO法人ミューズの樹
動画レクチャー➡動画レクチャー – NPO法人ミューズの樹
ミューズ細胞を用いた再生医療製剤の実用化に向けた現在までの流れ
ミューズ細胞を用いた再生医療製剤の実用化に向けた現在までの流れを調べてみました。
2015年、三菱ケミカル子会社の(株)生命科学インスティチュートはミューズ細胞の独占的使用権を保有していたベンチャー企業を買収し、ミューズ細胞を用いた再生医療等製品CL2020の開発を行ってきた。
同社は急性心筋梗塞の患者を対象に探索的臨床試験を開始し、脳梗塞、表皮水疱省、脊髄損傷、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などについても臨床試験を行ってきた。
脳梗塞に対するCL2020のプラセボ対象二重盲検比較試験では、非常に良い結果を示し注目されていました。
しかし2022年にCL2020の"条件付き早期承認制度(患者数が少ないなどの理由で治験の実施にかなりの長時間を要すると認められる医薬品・医療機器・再生医療等製品について、発売後に有効性、安全性を評価することを条件に承認する制度)"の適用を目指して治験を重ねて来たが、同年秋"条件つき早期承認制度"への申請が認められなかった。
この日本の"条件付き早期承認制度"は、Nature誌をはじめ海外から拙速な制度ではないのかとの指摘が相次いでいたこともあって、当初より審査が厳格化されたのではないかとの見方もある。
それをうけ、三菱ケミカルグループは、日本の早期承認制度への海外からの批判や不信感を考慮したうえで将来、信頼される海外展開を視野に、条件付き早期承認制度ではなく本承認を目指すと、路線を変更しました。
ところが今年2月14日、同グループは突然、「Muse細胞を用いた再生医療等製品(CL2020)の開発中止」を発表しました。
次のよう内容になっています。
「当社グループは、2015年より同細胞を用いた再生医療等製品の研究開発を積極的に進め、投資を行ってまいりました。しかしながら、最新の臨床開発状況や事業化までのタイムライン、今後の医薬品事業戦略などを総合的かつ慎重に検討した結果、本製品の開発を中止することを決定しました。」
これは、あくまで企業の事業としての収益性に基づいての判断であるとのニュアンスがうかがえる発表になっています。
これに対し、"ミューズ細胞を守る会"を立ち上げていた出澤真理教授と岐阜大学名誉教授で岐阜市民病院心不全センター長の湊口信也先生をはじめとする医療現場で治験に携わった8人の医師らは、同じ日緊急記者会見を開いていました。
会見では、ミューズ細胞を守る会側は、さきの心筋梗塞の治験の結果について、医療現場で治験に携わった自分達8人の医師の評価と、依頼者側である生命科学インスティテュートの評価に大きな乖離があると訴えています。
依頼者側の解析結果出た結論は、有意差を示さなかったというものでした。
一方、治験に携わった医療現場側では、解析結果でポジティブな評価がなされていることから、依頼者側に対し治験の有効性を過小評価しているのではないかという疑義を呈しています。
出澤真理教授と医療現場で治験に携わった8人の医師らが立ち上げたミューズ細胞を守る会は、依頼者側に対し解析データの開示を求めていますが2月の時点では、依頼者側は開示を拒否している状況の様です。
その後の行方に注目していますが、あまりその後の情報がネット上で見当たりません。ミューズ細胞を守る会のサイトも無くなっています。
5年前にここのブログで記事にした近赤外光線免疫療法とミューズ細胞には、期待を寄せているのでとても気になるところです。
”ミューズの樹”から下記のお知らせが出ています。
「この度、治験を行っていた三菱ケミカルグループおよびその子会社の生命科学インスティテュートが、会社都合により突然Muse細胞事業からの撤退を表明しました。これまでMuse細胞の研究をしてきた出澤研究室および、ご協力いただいてきた他大学、医療機関の関係者は、Muse細胞が様々な症例に有効なものと考えております。Muse細胞を待ち望んでおられる患者様のために、開発を継続すべく、新たな協力先との連携も視野に入れて、最大限の努力を続けてまいります。
少しお時間がかかるとは思いますが、ご案内できる問い合わせ先が見つかるまでお待ち頂ければ幸いです。どうかご理解頂けますよう、お願い申し上げます。」
新たな協力先が見つかり連携が成されてミューズ細胞を用いた再生医療の開発が続くことを願います。